2014年7月 全国農村振興技術連盟 連盟誌「農村振興」第775号

“中山間地域対策には “地域全体を考えた包括的な支援を”


吾郷 秀雄

一、はじめに
高齢化のトップランナーの島根県で、中山間地域の持続的な振興対策に取組んでいる。
中山間地域では過疎化・高齢化により、耕作放棄地や未管理林地が増大し、それに伴って獣害が拡大してきている。また未管理の林地は土砂災害に対する防災機能を弱めている。これらの対策として、集落営農や6次産業化を含めたコミュニティビジネスの支援が進められているが、これだけでは前述の問題を解決することは難しいと考える。
本稿では、国全体が人口減少社会を迎えている今日、「過疎化対策」ではなく「適疎対策」として、中山間地域が持続するための地域全体を考えた包括的な対策について考えてみたい。

二、中山間地域の現状
中山間地域の水田はのり面が長く圃場が狭いことから、高齢化とともに耕作放棄地が増加している。耕作放棄地の特徴は①大量のクズや竹が繁茂、②小面積で点在、③湿田が多い、④山に接していることで、その理由は①担い手がいない、②立地条件が悪い、③獣害があるなどである。
林地は、木材価格の低迷から間伐が実施されず、また放置竹林が拡大しており、獣の住処になっている。これらの双方に関係する大きな問題は、不在地主を含めた地主の協力が得られないことである。
畜産としては1960年代までは各家に1~2頭の役牛が飼われ草が活用されていたが、収益が低いために止められた。
一方、東日本大震災以後、若者の中で農業に挑戦したいという機運が高まっていることは注目に値する。

三、実施されている中山間
地域対策とその課題農地の耕作放棄地対策としては農地再生事業や林地への移行事業があるが、高齢化により新たな投資は難しい。農地中間管理機構による農地集積対策が始まったが、貸し手は多いものの、のり面管理が大変なため受け手が少ない実態である。
耕作放棄地対策の切り札として放牧が提言されているが、進んでいない。その理由は①耕作放棄地は条件不利地のところが多く、また場所が点在していて放牧が難しい、②放牧の集落説明をしても家畜糞尿の環境への影響を危惧される、などである。また、農地集積への支援はあるが、放牧地の集積には支援がない。
林業分野では「木の駅事業」と呼ばれる、高知県から始まった副業的自伐林業(木材価格6000円/㌧)が広がってきている。副業的な収入が得られるためよい制度であるが、竹は対象外である。
一方、コミュニティビジネスは様々な省庁の支援によって積極的に進められている。

四、中山間地域の持続的な振興対策の提案
中山間地域の持続的な振興のためには、図1のように農業・林業・畜産のベース産業の振興の上に、コミュニティビジネスが行われる必要があると考える。またベース産業では分野縦割りではなく、農村を面と考え地域総体として支援する必要があると思う。

耕作放棄地対策の優良事例として、集落営農組合が耕作放棄地と隣接する雑木林を含めて放牧地として活用している例が、島根県内にある。不在地主からの協力が得られた放牧地は19haあり、このうちの85%は元林地である。放牧後、獣害は激減した。経済的には、放牧だけではまだ収益が少ないが、「牛がいなければ地域がもたなかっただろう」、という。
この事例からベース産業の振興対策として図2の対策が考えられる。①広大な林地(植林と雑木林)の間伐を木の駅事業で進め、樹木の生長促進と土砂災害防止機能を向上させる。②耕作放棄地は集積し、合わせて隣接する雑木林や竹林を伐採して山地放牧地として活用する。③林地を含めた放牧地を「日本型直接支払」の対象とする。

農業に加えて、林業、畜産業を行うことによって、農業だけでは難しい冬場の収益が確保でき、合わせ技1本として収入が増加する。この対策の最大の問題点は、不在地主を含めた地主の協力が得られるかどうかである。
さらに今後拡大すると考えられるエネルギー対策として、④木の駅事業で搬出された木材を活用して、住居や温室ハウスへの集落熱供給事業(薪活用)のパイロット事業を試行する。

五、農村振興分野の必要な支援
前述の事業を進めるために、農村振興分野の計画支援としては次のような活動が考えられる。
①20年後の将来ビジョンの立案:個別の対策から実施すれば、前述のように放牧に対して〝臭
い〟などと必ず反対者が出てまとまらないことが多い。このため、集落住民(男女参加)が
参加したワークショップ等により将来ビジョンを立案し、「地域が一致団結して取り組む」
ことを確認する。
②集落全体が一つの経営体となった集落営農・営林・放牧を進めるための集落プラン(集落全
体の土地利用管理計画)の立案:まず、現在の耕作放棄地、植林地、未利用広葉樹、不在地
主地、害獣被害地などを明らかにした現況土地利用図を作成する。それを踏まえて、次に将
来の土地利用計画を立案する。農地の集積に加えて、点在している耕作放棄地を放牧地とし
て集積し、それに隣接した雑木林・竹林をできるだけ一緒にした大面積の放牧地を確保する。
また未管理の林地は、自伐林業の対象地として「山を解放」してもらう。
③不在地主地の取り扱いについては解決策を話し合い、例えば集落協定等により不在地主の土
地を集落組織へ管理委託(土地管理委託協定)してもらう。また政策支援としては、次のよ
うな支援が望まれる。
④耕作放棄地を放牧地として集積する支援や、竹林を含めた雑木林を山地放牧地として伐採し
たり水飲み場を設置する支援。
⑤日本型直接支払の対象として、林地であった放牧地を含める支援。
⑥木の駅事業で搬出された木材資源を地域の熱源に活用するため、住居と温室ハウスを含めた
集落熱供給事業の実証事業を行い、企業化の可能性の検討支援。
⑦これらの事業によるCO2削減効果算定のため、簡易な計量モデルを確立する支援。
これら提言は、まさしく農村振興技術者が得意な分野であることから、各地で実践が行われ
て技術の研鑽と蓄積が進み、中山間地域の持続的な振興に寄与することが期待される。

(2014年7月 全国農村振興技術連盟 連盟誌「農村振興」第775号)

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