2015年12月 農業農村工学会 学会誌「水土の地」15.12月号

パイプラインシステムの実践的な水理解析
The Practical Method for a Hydraulic Analysis on Pipeline System


福井 章夫

I. はじめに
「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説設計『パイプライン』」(以下,「設計基準」という)において,「水撃圧の予測は,計算による方法を原則とする」1)となっている。しかし,樹枝状配管の計算が,「水槽〜単一管路〜バルブ系の簡単なもの」1)に限定されている理論解法によりなされていたり,境界条件などが不明確なままでブラックボックス的に市販ソフトが使用されている例も見られる。このため,技術者には非定常解析の技術力が求められている。
また,一般的に,樹枝状配管では表計算ソフトによる定常水理計算により,管網配管では末端吐出しバルブ部に計画吐出し量を与えて管網計算専用ソフトにより管口径を決定しているが,実際の水使用時に,水源からの遠方部や高位部で計画吐出し量が確保できない場合がある。これは,兼業農家の限られた時間での水管理などのため,末端バルブが最大限に開かれ,計画水量以上の吐出し部が生じているためである。このため,設計段階時に,末端吐出し量を圧力・流量境界として扱うなど,バルブ全開時におけるパイプラインシステム全体の定常流況解析が必要である。
パイプライン設計に必要な水理解析には,「バルブが閉塞するとき流量はどう変化していくのか」,「末端吐出し量をどのように与えるか」など境界条件の設定が最も重要である。本報では,少々古いが,プログラムソース(Fortran)が記載されている書籍を紹介しながら,それらへの対応テクニックを中心に述べる。

II. 非定常流況の解析
1. 基礎式,解析手法およびプログラム
非定常流況の解析は,弾性体理論による非定常流況の基礎式1)および中心差分法による差分式1)に基づいて行う。詳細に解説された管水路の不定流解析プログラムが「パイプライン−設計,施工,管理−」に示されており2),これを活用してプログラムを作成する。

2. 境界条件
「バルブ設備計画設計技術指針」には,バルブと送水管の関係として,図-1,式(1),(2)などが示されている3)。そこで,定常水理計算をもとにバルブの上下流送水管の損失係数CP1,CP2および区間全損失水頭H0を定数とし,バルブ通過量Q をバルブの損失係数fvの関数とする。また,仕切弁の開度別損失は,「設計基準」に図示されており1),これを使用する。

これらの定常水理計算,開度別損失より,バルブ通過量は表-1(口径450 mm の場合)のようになる。表-1 におけるバルブ開度と流量の関係をもとに,バルブ開度が100%から0%となる閉塞時間(この場合,60 s)を設定してExcel によりグラフ化を行ったのが図-2 であり,グラフをもとに近似式を求める。バルブ開度100〜30%は三次関数で,開度20〜0%では二次関数で近似でき,2 つの関数を一次関数で結ぶ。この3近似式をバルブ境界条件として与えて解析する。

3. 解析結果
作成したプログラムでは,任意地点の水頭,流量を出力することができ,さまざまな検討が可能である。

図-3 は,バルブ直上流での解析結果である。Fortranのみではビジュアル化が困難であるが,計算結果をCSV ファイルに出力してExcel にインポートすれば,このようなグラフ化が可能である。

III. 定常流況の解析
1. 解析方法
解析方法としては,図-4 のような送水ポンプと吐出しバルブからなるシンプルなパイプラインシステムを考え,管路ロス,ポンプ周り損失などを考慮し,ポンプとバルブにそれぞれの特性関数を与えて計算する。
その結果,バランスが取れた状況として,図-5 のように,ポンプのH-Q 特性曲線とバルブのH-Q 特性曲線が交差した点を求めることができる。この手法によりパイプラインシステム全体の解析を行う。

2. 境界条件
「パイプライン−設計,施工,管理−」および「電算標準例題集」には,節点法による「管網の水理計算」のプログラムが示され,詳細な解説もされている2),4)。
これらでは吐出し流量を境界条件データとしているが,実際の流況は計画どおりにはならないため,吐出し量を水理特性の関数とする。水槽に吐き出す場合,水槽水位や流出損失などを定数とし,式(1)をもとに吐出し量をバルブ一次側水頭の関数で表す。給水栓やスプリンクラの場合は,カタログなどに載っている水理特性グラフを利用して関数化を図る。

3. 解析結果(パイプラインシステムの見直し)
解析結果から圧力不足の箇所が生じた場合は,一部区間の口径を見直し,パイプラインシステム全体の妥当性を再確認する。この手法は,「設計基準」にも詳しく解説されているが1),設計段階における検討は多くが十分ではないようである。

4. 老朽パイプラインの診断への応用
既存のパイプラインシステムの空気弁部水頭や各バルブ吐出し量などを実測の上,本解析を行えば,経年変化により老朽化したパイプラインの閉塞化が進んでいる箇所や不具合箇所を想定することが可能であり,管網配管地区の機能診断への応用も行っている。

IV. おわりに
「新たな食料・農業・農村基本計画」において,農業農村整備事業は「構造改革の加速化や国土強靭化に資する」と位置づけられ,①ICT等の導入やパイプライン化等により農業水利システムを構築,②老朽化に対応した農業水利施設の計画的かつ効率的な補修・更
新,などが取り組まれている。このため,パイプラインシステムの水理解析は大変重要であり,技術者自身によるプログラム作成や市販ソフトの適切な活用など一層の研鑽と技術の継承が望まれる。

引用・参考文献
1)農水省農村振興局:土地改良事業計画設計基準及び運用・解説設計「パイプライン」p.230,
231,222,250,193,pp.204〜217(2009)
2)内藤克美:パイプライン−設計,施工,管理−,pp.173〜193,156〜172(1988)
3)農水省農村振興局:バルブ設備計画設計技術指針,p.8(2002)
4)農林省構造改善局設計課:農業土木技術者のための電算標準例題集,pp.100〜11(1976)

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