2014年1月 農業農村工学会 学会誌「水土の地」14.01月号

ポンプ施設のストックマネジメン卜の課題と提言


河原 宏 吾郷 秀雄

I. はじめに
農業の生産性向上と安定的な生産および地域の保全を目的として,農業農村整備事業の中で多くのポンプ施設が建設されている。ポンプは運転時間の経過とともに摩耗や腐食などの劣化が進行レ性能が低下するため, 日頃からのポンプの日常点検(機能監視)が非常に重要で、ある。農林水産省では農業水利施設の保全対策を,より的確かつ効率的に実施するため,既存施設の状態を定期的に診断・評価し劣化予測を行うことで,適時・的確な対策を選択・実施するなどの取組みを基本とする「ストックマネジメント(以下,「ストマネ」という)」を進めているI)。
保全対策は,予防保全対策と事後保全対策に大別される。予防保全は設備の使用中における故障を未然に防止し設備を使用可能な状態に維持するために計画的に行う保全であり,事後保全対策は設備が機能低下, もしくは機能停止した後に使用可能な状態に回復する保全である九事後保全対策は一般的に多額の費用が必要となることから,問題が発生する前の予防保全対策が非常に重要であるといえる。
しかしながら,多くの土地改良区ではポンプ施設が建設されたにもかかわらず,ポンプの専門技術者が雇用されていないため十分な予防保全対策が実施されていない実態であり,結果的に維持管理費が高くなっている可能性がある。
本報で、は弊社が中園地域で行ったポンプ施設のストマネ調査や間取りの分析結果から,現場での日常点検(機能監視)の問題点を明らかにし長寿命化に向けた取組みについて考察する。

II. 土地改良区による保全対策の取組み
1.島根県土連による診断指導業務
島根県土地改良事業団体連合会(以下,「県土連」という)では,国の「地方連合会が行う土地改良施設管理円滑化事業」を活用してポンプ施設の診断・管理指導を行っている。ポンプ場の対象施設数は330カ所あり,年間の診断・点検指導施設数は80~90カ所である。
具体的な,点検・診断内容は全国土地改良事業団体連合会で作成されたチェツクシートをベースに一部修正して,外部からの① 目視,②指触, ③聴音, ④臭覚,⑤打診, ⑤手動, ⑦計測により,ベアリング状態や絶縁抵抗のチェックなと手を行っている。平均的な診断間隔はIポンプ当たり4~5年にl回である。
本事業により継続的な診断が可能となり,問題場所の所在,ベアリング交換までの必要年数などが分かつてくることから,地元土地改良区では「事前に必要な資金を積み立てて対応できる」と喜ばれている。
また土地改良区が,ポンプの調子が悪くなったと感じた場合の技術的な相談や積算などの相談にも応じている。

2.ほとんどの土地改良区の保全対策
中園地域におけるほとんどの土地改良区の保全対策は,次のような実態である。
小さな土地改良区では事務処理の職員もおらず操作員がポンプを動かしているだけの場合もある。その場合は市町村の職員が,事務処理をしている。
事務処理の職員が雇用されている土地改良区でも,ポンプの専門技術者はほとんど雇用されていない。この結果,ポンプ機器の保全対策は事後保全対策を中心
とした取組みとなっている。
ポンプの操作員は,受益者である農家の場合が多く,ポンプの知識がほとんどない。操作員の選出は,受益者の中から順番で選ばれているところがある一方,操作員が決まっているところでは,お年寄りの場合が多い。操作員は通常のポンプの運転操作と日報整理は
行っているが, トラブルが発生すると自分では対応できないため土地改良区の責任者に連絡して,そこから地域にあるメーカーの代理店に連絡され対応がとられる。なお問題が大きい場合は,メーカーに要請される。

3.島根県のA土地改良区の予防保全対策(優良な事例)
A土地改良区では約20カ所のポンプ施設を保有し各施設には3~4台のポンプが設置されている。
A土地改良区ではポンプの専門技術者をl人雇用して,定期的(2~3年ごとに1回)に分解点検整備を実施している。分解点検整備では,ポンプを分解して①スリーブの摩耗状態のチェック, ② ライナーリングの隙間計測, ③グランドパッキンの交換, ④電磁開閉器の交換などを実施している。
平成14年からは,この技術者の業務が忙しくなったことから, A土地改良区が市内のポンフ。知識を持っている個人と管理委託契約をして,分解点検整備などの維持管理作業を実施している。管理委託契約中に部品の交換が必要になれば,必要経費は部品代だけであり安価である。管理委託契約は, i韮瓶期間の6カ月間だけで,月20万円となっている。
それに比べてメーカーの維持管理費は,非常に高い。A土地改良区では数年前にメーカーや代理店の数社から見積りを取ったところ,稼働前,稼働中,稼働後の3回分の費用として,ポンプ施設1カ所あたり70~200万円という結果になった。なお最低価格は,地元のメーカーの代理店で、あった。
A土地改良区は県土連が行う計測器を使った電流値や振動値などの診断事業はベアリングの交換時期の目安を得るために有効な対策であると制面し,自ら行っている維持管理作業に加えてそれらのデータを活用して,国の「土地改良施設維持管理適正化事業」(主としてオーバーホール事業)を計画的・効率的に導入している。
また,維持管理費の軽減対策として, A土地改良区では大手メーカーとの直接契約ではなく,あくまでもメーカーの代理店とだけ契約をしている。この契約方法をとったことにより維持管理費が大幅に下がった。たとえばメーカ一本社との契約ならば, 1日1人8万円は必要となるが,メーカーの代理店の場合は地元にあるため安価となる。
ポンプ場の操作は,ポンプ場ごとに設立された運営協議会で選ばれた, 2~3人の操作員に任せられている。操作員はゴミ処理, 日常の維持管理の実施, 日報への記録,パイプラインの管理,ローテーションブロックの管理を担当している。

III. 考察とまとめ
ポンプ施設の長寿命化の本質は予防保全対策であるが,ほとんどの土地改良区ではポンプの専門技術者が確保されていないため事後保全対策だけがとられている。受益者の考えの根本には「今,ポンプが動いているので新たな維持管理費を支払わなくても“いいじゃないか”という意識があり,予防保全対策への投資を難しくしている。しかし事後保全対策は結果的に維持管理費を高くさせてしまっている可能性がある。
一方, A土地改良区の場合はポンプの専門技術者の雇用と,民間への維持管理委託契約により,維持管理費の大幅な軽減につながっている。専門技術者がいることによって,定期的な分解点検整備に加え,メーカーの代理店からの部品交換の提言に対しても,必要性を的確に判断できることから修理費が安価になっている。
また,落雷などによるポンプの緊急停止などの小さな問題解決も,自分たちで対応できることから維持管理費の軽減につながっている。
これらのことから, A土地改良区以外の場合でも,ポンプの専門技術者と維持管理委託契約を締結するなどによる,予防保全対策の実施が効果的と提言できる。その場合,以前は実施されていた,ポンプの専門技術者の養成を目的とした育成研修会についても,再考する必要があろう。
多くの地区ではパイプライン化が進み,水管理が便利になったが,それと同時にポンプ施設の維持管理が必要となった。一方,農産物価格は低迷し農家の収入が減少している。このためポンプ施設の長寿命化と維持管理費の低減は,土地改良区の重要課題と言える。この提言が今後のポンプ施設のストマネ事業の参考になれば幸いである。

引用文献
1) 農林水産省農村振興局整備部水利整備課施設管理室,農業土木事業協会.農業水利施設の機
能保全の手引き, p.1(2007)
2) 農林水産省農村振興局設計課:農業水利施設の機能保全の手引き「ポンプ場(ポンプ施
設)」, p.21 (2013)

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